本日の日経新聞の記事で面白い記事があったので紹介します。これまでの担保・保証に依存しない融資の事業性評価融資の延長のようなもので、2026年から企業価値担保権という新たな取り組みがスタートするという内容です。これまでスタートアップや資産を持たない企業では資金調達の際に担保の代わりに経営者保証を取られたりしていて機動的な動きが制限されていました。しかし企業価値担保権という新たな取り組みよって企業によっては事業の将来性・成長性に担保権を設定できる為、よりスムーズに資金調達ができる可能性がでてきます。これは金融庁の職員のアイデアから始まったようで今年の6月に成立した事業性評価推進法に盛り込まれています。”企業の成長性が認めれれば”という条件付きなので全ての企業で使えるかといえばそうではないでしょうが、今後成長が見込まれる産業や将来性のある事業においては資金調達の可能性が広がると思われます。この企業価値担保権はこれまでの担保・保証に依存しない融資として金融庁の悲願であるとも書かれているので、監督官庁としては全面的に広げていきたいという意思を感じます。
どのような企業の利用が想定されるか
企業価値に担保権を設定するので、当然成長が見込まる企業が対象になるのではないかと思います。まだ始まっていない制度なので予想でしかないですが、既存の業歴がそこそこある企業において赤字の企業や収益性が乏しい企業はこれまで通り担保・保証を求めれることに変わりはないように思います。金融庁としても選択肢の一つという位置づけにしているので、金融機関側の評価次第ではありますが、収益性の低い企業にリスクをかけることは考えずらいのでその辺は仕方ないとは思います。どちらというと中小企業の継続的な資金長調達を支援するという意図ではなく、これまで事業の将来性・成長性があるにも関わらず古い金融慣行のせいで必要な額の資金が調達ができなかった企業の利用を想定しているのではないでしょうか。ここでいう古い金融慣行というのは、少額からの取引で実績を積んで与信を広げていくという暗黙の了解のようなルールです。
具体的な対象としては下記の場合を想定しているようです。
- スタートアップ
- 事業承継
- M&A(合併・買収)ファイナンス
- プロジェクトファイナンス
いずれも事業性の評価がカギになるので、現時点で金融機関側の評価はマチマチのようです。メガバンクの様に大規模金融機関には事業性を評価するリソースを避ける人員・人材がいるので比較的前向きな受け止めのようですが、規模の小さな地銀や信金では評価も難しくその後も適切な管理(モニタリング)ができなければ回収不能になるリスクも高まる事から複雑なようです。
何を評価されるのか
企業価値といっても何を評価されるのかは気になりますよね。決算書のデューデリジェンスによる評価では今までと変わりないので、それ以外のところがメインになってくるとは思うのですが、記事中に記載されているのは下記です。
- 企業の持つ独自技術やノウハウ
- 顧客基盤
- 取引のデータなど無形資産
これらを含めた企業価値全体を担保とするようです。これを見て思ったのはのれん(超過収益力)の評価のようだと感じました。大企業であれば監査法人の監査を受けてますし、財務諸表、技術力やノウハウの資産価値評価は比較的容易なのかもしれません(作業的には大変だと思います)が、中小企業ではどうやって無形資産を金額評価するのでしょうか。現時点でこれが金融機関にできるできないは私にはわかりませんが非常に興味深いですね。
金融機関との付き合い方が変わるかも
この企業価値担保権は債務者の求めに応じて極度額を設定したら複数行での借入が可能な仕組みとのことですが、管理面では1行取引の方が楽になるのではといわれています。その理由としては今までの貸出よりもより深く企業との関わりが求められる為です。複数行が企業管理に深くかかわると逆に管理しづらいという事だと思います。これは確かに管理面ではそうかもしれませんが、リスク負担の観点からは金融機関側も複数行の取引を推奨するのではないでしょうか。また1行取引は企業側からもリスクだと思います。恐らく担保設定されているからといって極度額いっぱいまで無条件に借りられるわけではないと思うので、どこかのタイミングでその1行が貸出を渋り始めたら相談する先がなくなります。その意味でもお互いベッタリになりすぎない方がいいのではと思います。癒着防止の為営業を数年で異動させる取組の趣旨から考えるとあまり深く関わりすぎるのも考え物ですね。
まとめ
非常に前向きな制度だと思いますしどうやって企業価値を評価するのか、とても興味があります。これによって企業の資金調達がより円滑化するだろうと思うのですが、この記事を読んで他の記事で企業価値担保権を調べてみると、名前を変えたシンジケートローンのような気もします。根本的には違うものだと思いますが、為せる効果は同じじゃないかと。諸々の手続きは違うにせよ多くの企業でシンジケートローンが利用できるようになると思うば非常に有用性が高いと思います。通常比較的企業規模があって業績がいい会社でしか利用できないので、企業価値評価によって同じような資金調達効果が得られるのは今後借り手側の選択肢が増えるのでいいことだと思います。まだこれから始まる制度の為色々と決まっていない部分も多いと思いますが、資金調達支援する側においてはキャッチアップしておきたい情報だと思いましたので記事にしました。また新たに情報があったら記事にしていきたいと思います。
不動産担保はもう古い? 金融庁悲願の目利き融資とは 金融PLUS 金融グループ次長 小野沢健一 – 日本経済新聞
コメントを残す